借金の時効はいつからカウントされるか
1 民法改正
消滅時効の規定は2017年の民法改正(施行は2020年4月1日)で改正されました。ただ、2020年4月1日よりも前に発生している債権については改正前の民法が適用されますので、ここでは、改正前後の条文に即してご説明します。
2 民法の規定
改正前の民法は、消滅時効について、「消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。」(改正前民法166条1項)と規定していました。
改正後の166条1項は、「債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。」とし、1号で「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。」、2号で「権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。」と規定しています。
3 権利を行使することができる時
改正前の166条1項と改正後の166条1項2号は、「権利を行使することができる時」という同じ内容を規定しています。
例えば、Aさんが、年利5%、返済期日を貸付日の6か月後とする約定でBさんに100万円を貸し付けた場合、Aさんが貸金返還請求権を行使することができるのは返済期日以降になりますので、Bさんの借金の時効は返済期日の翌日からカウントされることになります。
民法の原則である初日不算入が適用されますので、消滅時効期間のカウントは債権を行使できるようになった返済期日からではなく、その翌日からとなります。
また、例えばAさんが貸付金額100万円、返済期日毎月末日(貸付日の属する月の翌月から開始)、10回払い、延滞が2回分に達した場合は当然に(Aさんによる何らかの行為を要することなく)期限の利益を喪失する、という内容でBさんに貸し付けした場合、例えば初回返済額の10万円は初回返済期日の翌日から消滅時効期間がカウントされますが、残りの90万円はまだ返済期日が到来していませんので、消滅時効期間は進行しません。
しかし、Bさんが1回目の返済期日に1円も返済せず、そのまま2回目の返済期日にも1円も返済しなかった場合、延滞が2回分に達し、返済期日がまだ到来していない分について期限の利益を喪失する(=直ちに返済する義務がBに生じる)ことになりますので、100万円のうち10万円は1回目の返済期日の翌日から、2回目以降の90万円については2回目の返済期日の翌日から消滅時効期間がカウントされることになります。
なお、銀行カードローン、消費者金融の貸付、クレジットカード会社の貸付、立替金等については、契約約款等において、通常、1回でも返済期日に返済を怠った場合は期限の利益を喪失すると規定されています(ただし、返済期日に返済がなくても、例えば数日後に返済がなされた場合は、業者は債務者に期限の利益を再度付与して通常の取引を継続するのが通常です)。
4 債権者が権利を行使することができることを知った時
改正後の民法166条1項1号は新たに規定されたものになりますが、金融業者による貸付債権や立替金債権に関しては、「債権者が権利を行使することができることを知った時」は、「権利を行使することができる時」と同じであると理解していただいて通常は問題ありません。
なぜなら、権利を行使することができる時期は、貸付等を行う際の契約で明確に定められており、債権者は、当然その契約内容を知っていると判断されるためです。