時効の援用ができないケース
1 時効援用のご相談
近時、消滅時効期間が経過している貸金債権等について、主に当該債権を譲り受けた債権回収会社等から督促状が届いたり、民事訴訟を提起されたりするケースが増えており、時効援用のご相談も増えています。
時効援用のご相談のうち、だいたい9割以上は時効援用の手続を行うことにより無事終了している印象ですが、時効の援用ができないケースも一部存在しています。
本稿では、この時効の援用ができないケースについてご説明します。
2 当初の消滅時効期間が経過していないケース
⑴ 消費者金融やクレジットカード会社に対する負債は、期限の利益を喪失し一括返済となってから5年が経過することで時効消滅します(なお、銀行からの借り入れについて消費者金融やクレジットカード会社が保証会社になっている場合は、保証会社が銀行に代位弁済を行った時から5年です)。これは、消滅時効期間に関する民法改正前後で変わりません。
期限の利益は、通常、返済期限が過ぎることによって喪失します。例えば、令和元年5月25日の返済期限には返済をしたものの、翌月25日の返済期限には返済ができず、そのままになってしまった場合、令和6年6月25日が経過すると期限の利益を喪失することになります。
ただし、任意整理を行っている場合は、通常、延滞が2回分に達した場合に期限の利益を喪失すると定めますので、期限の利益喪失時期は、任意整理を行っていない通常のケースとは少々異なります。
5年くらい前に返済をストップしたので時効ではないかとのご相談を受けた際に、信用情報等を調べるとまだ4年程度しか経過していなかったというケースがあり、そのような場合は、当然ですが消滅時効の援用はできません。
⑵ なお、一部の金融機関からの借り入れについて、改正前の民法が適用されるケースでは、時効期間は10年になりますので注意が必要です(例えば住宅金融支援機構、日本学生支援機構、信用金庫、信用組合等からの借り入れがこの対象となります)。
3 時効更新事由がある場合
⑴ 判決等の債務名義がある場合
債権者が判決等の債務名義を取得している場合は、時効期間は判決等の確定日から10年となります。
時効の管理をしっかりおこなっている債権者は当初の時効期間が満了する前に訴訟等裁判上の手続きを行いますが、当初の債権者から債権を譲り受けた債権回収会社等の一部は、消滅時効期間経過後でも訴訟等を提起してくることがあります。
この場合、訴訟手続において消滅時効援用の主張を行わないと、判決では消滅時効は考慮されませんので、判決等の確定日から10年間は時効消滅しないということになってしまいます。
裁判所から訴状等の書類が届いた場合は、放置せずすぐに弁護士に相談してください(不在票を放置して受領しない方も少なからずいらっしゃいますので、必ず再配達を依頼して受領し、すぐに弁護士に相談してください)。
⑵ 債務の承認をした場合
時効期間が経過した借り入れ等について、債権回収会社等の債権者から督促状などが届いた場合に、弁護士等に相談せず、ご自身で直接債権者に連絡し、和解契約を締結して分割返済をしてしまっているケースも存在します。
このようなケースでは、和解契約を締結した時点で債務を承認したことになり、時効期間はリセットされることになります。
以上が、時効の援用ができないケースになります。