時効援用をするリスクにはどのようなものがあるか
1 時効援用の手続きの流れ
時効援用のご相談に来られる方の多くは、だいぶ前に返済をストップしていた借金等について、業者(法律用語で「債権者」といいます)から督促状等の書類が自宅に届いたことがきっかけでご相談のお申し込みを行っています。
このような場合、債権者から届いた督促状等に記載された債権に関する情報、債権者や元の債権者(これを「原債権者」といいます。)の会社名、ご相談者の方のご記憶から、時効になっているかどうかをある程度判断することが可能です。
他方、割合的には少ないですが、クレジットカードの申し込みをしたところ、審査に落ちたため、信用情報を取り寄せ確認したところ、だいぶ前に借りていたクレジットカード会社や消費者金融会社の名前があり、事故情報(延滞)が登録されていたということをきっかけに時効援用の相談を申し込む方もいらっしゃいます。
この場合、資料としては信用情報しかなく、あとはご相談者のご記憶のみとなり、時効になっているかどうかを判断するための情報量としては少ない、ということになります。
2 時効援用をするリスクとは
時効援用の手続き(およびその前提としての債権調査手続き)は、真に消滅時効期間が経過している負債について行うのであれば、消滅時効による債権消滅の効果を発生させるだけですので、リスクはありません。
しかし、消滅時効期間が経過していない負債について、時効援用の手続きまたはその前提としての債権調査手続きを行ってしまうと、債務者についての情報が債権者側に知られてしまうというリスクがあります。
3 具体例
弁護士が代理人として行う時効援用手続きは、当然ですが、対象となる債権について消滅時効期間が経過していることを確認してから行います。
この確認について、債権者から送付された督促状等に十分な情報が記載されている場合は、その情報と債務者の方のご記憶を基に行うことが可能です。時効になっていることがほぼ確実であれば、債権者に対して債権の情報について照会するリスクも高くありません。
しかし、信用情報と債務者の方のご記憶しか資料がない場合、消滅時効期間が経過しているかどうかを確実に確認するには、債権者に照会をするしかありません。そして、照会を行うためには現住所等、債務者の個人情報を債権者に伝える必要があります。
債権調査の結果、債権者が判決等の債務名義を取得しており、時効期間が経過していなかった場合、これまで止まっていた督促が再開する可能性もありますし、債務名義を取得されていますので預貯金や給料に対する強制執行(その前提としての財産開示手続)が行われるおそれもあります。
判決等の債務名義は、裁判所から書類が届きますので、裁判が行われた可能性があるかどうかは記憶で判断することが通常は可能ですが、裁判所から配達された郵便について不在票が入っており、その不在票を放置していたような場合は、裁判所から配達された書類を見ることはないですので、裁判所から届いた書類はない、と判断しがちです。
このように、消滅時効期間が経過していない債務について時効援用の手続きないしその前提として債権調査手続きを行ってしまうと、眠っていた債権者を起こしてしまうというリスクがあり、そうなると、強制執行を回避するため、任意整理、自己破産等の債務整理を行わなければならなくなります。